シルクハットの下、マントの裏、ジャケットのポケットの中、
江戸川の体のありとあらゆる所からころころ、ばらばらと色とりどりのラッピングキャンディが
——こんなにたくさん、どこに隠してあるのだろう?
どうぞ、と差し出された赤い包装のキャンディを受け取りながら、堀は不思議に思った。
衣服のどこも膨らんでいるようには見えないのに、彼が手を
ずっとその
この手品ショーは、ここにいる堀ひとりのために行われている。
堀は
ベンチを囲む低い生垣の向こうから現れたのは、初夏さながらの気温だというのにいつもの白いスーツに黒いマントをなびかせる江戸川だった。彼が身につけているシルクハットの白や磨かれ抜いたブローチが太陽光をきらりと跳ね返し、堀の目を
ぱちぱちと
そうして始まったこのショーの中で、堀は江戸川に対し違和感をいくつも感じていた。普段の彼は多弁な方であるのに、今は全く言葉がないこと。いつものような
中でも一番強く感じている違和感は、江戸川の笑顔が柔らかいことだ。普段時も笑みを浮かべていることが多いが、その深みある碧眼を見れば鋭い光を
「周りを
以前、江戸川本人から
しかし、いま目にしている笑みに尖った部分は見られない。まるくて甘やかな、そう例えば
——もしかして、このキャンディたちは乱歩さんの一部なのでは……。
だんだんと堀の思考が横道にそれていく。
「——アナタの目を引くことは簡単なのですが、」
またひとつ袖口から転がり落ちる青い包装のキャンディを目で追うと、江戸川がそれを空中でうまく
彼とは同じ
なのに、ほんの数分のショーの間ちっとも口を開かなかっただけで、まるで久しぶりにその声を聞いたような気分になった。
「やはり、気を引くのは中々難しいようです」
そしてキャンディをまたこちらに差し出してくるので、手のひらを上に向けて受け取る。
堀の白い手のひらに収まった、赤と青のキャンディ。それにぽつぽつと雫が落ちていく。
雨が止みませんねという声につられて顔を上げると、滲んだ視界の中で苦笑を浮かべている江戸川の顔が見えた。